統括アドバイザーの役割及び身につけておきたいこと
平成29年9月11日
大分県立図書館研修室


 おはようございます。
 ご紹介いただきました熊本県の中川でございます。
 今、国は地域とともにある学校づくりを目指しています。コミュニティ・スクールと地域学校協働活動を推進の両輪としています。熊本県もこの方向でいろんな施策を展開しています。その方策の一つに、5人の統括コーディネーターを配置して、地域学校協働活動推進等について行政や学校への助言や住民の皆さんへの啓発等を行っています。私はその一人です。
 大分県でも、地域とともにある学校づくり推進を“協育”と表して、その推進役に“統括アドバイザー”を位置づけ、地域とともにある学校づくりを進めておられます。その先頭に立っていらっしゃる皆様と地域学校協働活動について考える機会を得たことを大変うれしく思います。
 先ほど、“地域学校協働活動推進のためのガイドライン”をもとに、地域学校協働活動が目指す方向について行政説明がありました。少し重なるところがありますが、私は、これまでの経緯、統括アドバイザーの役割、そして、私が熊本県益城町のコーディネーターとして実践してきたこと、そして今実践していることをお話しします。
 「文部科学省は、地域とともにある学校づくりだとかコミュニティ・スクールだとかいろいろ言っているが、ここ数年の一過性のものに過ぎない。一種のブームだ」などと言う人がいますが、私は決してそうではないと思っています。
 この3月、社会教育法を改正し、地域学校協働活動の推進を法に明記しました。地教行法を改正し、市町村教育委員会に対して学校運営協議会の設置努力義務を課しました。平成32年度から実施されます新しい学習指導要領では、“社会に開かれた教育課程”の実現を目指すとして、子供たちが各教科で学んで得た知識や技能を活用して“よりよい社会づくり”に積極的に関わるよう示しています。
 このような教育の流れは、一朝一夕にしてできたものではありません。社会教育と学校教育の連携・協働に関する歩みを概観してみたいと思います。
 昭和49年4月、社会教育審議会が文部大臣に「在学青少年に対する社会教育のあり方について」と題する建議書を提出しました。その中で、「従来の学校教育のみに依存しがちな教育に対する考え方を根本的に改め、家庭教育、学校教育、社会教育がそれぞれ独自の教育機能を発揮しながら連携し、相互に補完的な役割を果たし得るよう総合的な視点から教育を構想することが重要である」ことを指摘しました。“学社連携”について言及しました。当時、社会教育側から学校へ連携しましょうとアプローチしましたが、社会教育は学校教育になじまない」とか「学校は敷居が高く行きにくい」などのもろもろの事情から学社連携はほとんど進みませんでした。しかし、学校施設を社会体育へ開放する動きは進み、運動場にナイター照明が設置されたり、地域住民が夜間体育館でバレーボールを楽しむなどの社会体育が盛んに行われるようになりましたことはご存じの通りです。
 昭和60年から62年にかけて、臨時教育審議会が当時の中曽根総理大臣へ4次にわたって答申を出しました。中でも第2次答申では、「学校は憲法・教育基本法に規定されている父母、児童・生徒の教育上の諸権利の尊重に努めなければならない。学校は地域社会や父母・家庭に対してもっと開かれた学校運営を行うよう努力し、児童・生徒の個性と人格を尊重する基本姿勢を確立し、学校への新鮮な風通しをよくすることが必要である」等を提言しました。“開かれた学校”と言う言葉の先駆けです。皆さんご存じのように第4次答申では、個性重視の原則、生涯学習体型への移行、社会の変化への対応を提言し、“生涯学習”という言葉が大きくクロ-ズアップされました。
 平成8年には、生涯学習審議会が「地域における生涯学習機会の充実方策について」を答申しました。その中で、「学校教育と社会教育がそれぞれの役割分担を前提とした上で、そこから一歩進んで、学習の場や活動など両者の要素を部分的に重ね合わせながら、一体となって子供たちの教育に取り組んでいこうという考え方」、いわゆる学社連携の最も進んだ形態であります“学社融合”という考え方を提起しました。「学校は社会から孤立して教育を進めることはできないのであり、生涯学習時代の学校として期待される教育機能を十分に発揮し得るために、地域社会に根ざした学校として、地域社会に開かれ、地域社会とともに発展していく姿勢が求められる」として、“地域社会に根ざした学校”という概念も提起しました。学社融合は、学校教育と社会教育がそれぞれの役割分担を前提とした上で、そこから一歩進んで、学習の場や活動など両者の要素を部分的に重ねあわせながら、一体となって子どもたちの教育に取り組んでいこうとする考えです。
 この頃、文部省では生涯学習の推進に力を入れ、全国の公民館で生涯学習講座が開設されていました。当時、大正琴が流行りました。地域の方が公民館で大正琴を練習しているところに学校から子供たちが訪れ、一緒になって大正琴の演奏に取り組むことがありました。これを社会教育では、社会教育事業としてとらえ、学校では音楽の時間ととらえました。このように社会教育と学校教育が一部融合した形の取組を学者融合と言っていました。
 平成10年、中央教育審議会は、「今後の地方教育行政の在り方について」を答申しました。その中で、「学校が地域住民の信頼にこたえ、家庭や地域が連携協力して教育活動を展開するためには、学校を開かれたものとするとともに、学校の経営責任を明らかにするための取組が必要であり、今後、より一層地域に開かれた学校づくりを推進するためには学校が保護者や地域住民の意向を把握し、反映するとともに、その協力を得て学校運営が行われるような仕組みを設けることが必要」と提言しています。開かれた学校の理念明らかにし、目指す方向を示しました。
 平成12年には、開かれた学校づくりの具体的方策として“学校評議員制度”が導入されました。また、教育改革国民会議報告では、「教育を変える17の提案」の一つに、地域の信頼に応える学校づくりを進めるために“新しいタイプの学校(コミュニティ・スクールなど)”の設置を促進することを提言しています。
 平成14年には、学校完全週5日制がスタートしました。また、“生きる力”の育成、“総合的な学習の時間”を導入した学習指導要領が実施されました。
 平成16年には、中央教育審議会が「今後の学校運営の在り方について」と題して、公立学校の運営に保護者や地域住民の参画を求めることにより、学校を内部から改革しようとする“学校運営協議会制度”の導入を答申しました。
 平成17年、コミュニティ・スクールが制度化され、4都府県17校が研究指定を受けました。今年の4月現在、3600校が指定を受けています。
 平成18年には、教育基本法が改正され、第13条に「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする」と、学校、家庭、地域住民等の相互の連携協力に関する事項が新設されました。
 平成19年に、放課後の子供たちの安心安全居場所づくりとして“放課後子供教室”が始まりました。また、“学校関係者評価”を実施して、地域の声を学校教育に反映させることを目的として学校評価が法制化されました。
平成20年には、教育振興計画が策定され、地域ぐるみで学校を支援し子どもたちをはぐくむ活動の推進、家庭・地域と一体になった学校の活性化等、学校と地域の連携施策が推進されました。地域住民等の参画により、学校の教育活動を支援する“学校支援地域本部事業”がスタートしたのは、この年です。
平成23年には、「学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議」が、「子どもの生きる力は、多様な人々と関わり、様々な経験を重ねていく中でよりはぐくまれるものであり、学校のみではぐくめるものではなく、保護者は家庭教育の責任者として、地域住民は地域教育の担い手として、それぞれの責任があり、子どもたちをどのように育てていくのかについて、学校に求めるだけではなく、当事者として自分達の持ち場で積極的に関わっていくという意欲が求められる。また、子供たちの豊かな育ちを確保するために、すべての学校が、地域の人々と目標(『子ども像』)を共有した上で、地域と一体となって子どもたちをはぐくむ“地域とともにある学校”となることを目指すべきである」と提言しました。
 平成26年には、「コミュニティ・スクールの推進等等関する調査研究協力者会議」が地域とともにある学校像に基づいて、これまで別々に取り上げられてきたコミュニティ・スクールと学校支援地域本部について、両者の一体的推進を提言しました。
平成27年12月には、中教審が「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」において、「今後の地域における学校との協働体制の在り方について、地域と学校が連携・協働して、地域全体で未来を担う子供たちの成長を支え、地域を創生する“地域学校協働活動”を推進すること。そのために従来の学校支援地域本部等の地域と学校の連携体制を基盤に、新たな体制として“地域学校協働本部”を全国に整備することや、コミュニティ・スクールの一層の推進を図るため、制度面・運用面の改善や、財政的支援を含めた条件整備等の方策を総合的に講じること」等を提言しました。本提言を推進するために作られたのがお手元にある“地域学校協働活動の推進に向けたガイドライン”です。
 昨年は、中教審が“社会に開かれた教育課程”の実現を示し、「教育課程の実施に当たっては、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを 社会と共有・連携しながら実現させることが重要」と提言ました。新しい指導要領は小学校が平成32年度から中学校は平成33年度からスタートしますが、総則に関する部分は、来年度からスタートします。
 そして、冒頭述べましたように、今年(平成29年)3月、社会教育法が改正されました。お手元の地域学校協働活動推進に向けたガイドラインの58ページをお開きください。第5条で「地域学校協働活動」を定義しています。9条の7において、地域学校協働推進のための連携協力体制の整備及び普及啓発、そして地域学校協働活動推進員を委嘱することができると示されました。併せて「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が改正され、学校運営協議会の設置努力義務及び学校運営協議会委員に地域学校協働活動推進員を入れることを規定しました。
 地域学校協働活動に至る経緯を見てきました。先ほどの行政説明でも話がありましたように、地域学校協働活動とは、地域の高齢者、保護者、PTA、NPO、民間企業、団体等の幅広い地域住民等の参画を得て、地域全体で子供たちの学びや成長を支えるとともに、学校を核とした地域づくりを目指して、地域と学校が相互にパートナーとして連携・協働して行う様々な活動のことです。本活動を行うことによって、子供たちの社会貢献意識、地域への愛着、コミュニケーション力及び学力の向上、教員の地域・社会への理解の促進、地域の教育力の向上、活動を通じた地域の課題解決や活性化など、子供、学校、地域それぞれに対して様々な効果が期待されています。
 いろんな方と話をしていますと、「なぜ支援から連携・協働か?」とお尋ねがあります。これまでは、学校は地域から一方的に支援していただいてきました。これからは、地域と学校がお互いにウインウインの関係、つまり、学校づくりのために地域から支援してもらうと同時に学校も地域づくりのために社会参加していこうという考えが一つです。また、学校と地域がパートナーとして対等な立場に立って児童生徒の育ちを見守っていこう、そのためには側面からの支援だけでなく、活動の計画の段階から互いに参画していこうという考えがひとつです。まさに、学校づくりと地域づくりが一体となった考え方と言っても過言ではないと思います。このような考えのもと、個別の活動から総合化・ネットワーク化へと広げていくことが求められているのだと私は思います。
 これからの地域と学校の協働の在り方のキーワードは、“ソーシャル・キャピタル(信頼・お互い様・絆)”だと言われています。
 ソーシャル・キャピタルとは、「調整された諸活動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴」を意味するそうです。ソーシャル・キャピタルは、「つながり感」と共通するように思います。地域学校協働活動を推進していくには、互いの信頼がなくてはなりません。お互いにウインウインの関係が求められています。人と人、地域と地域、学校と団体等のネットワークの構築が大切です。こういう意味からもソーシャルキャピタルという言葉は、地域学校協働活動を進めていく上ではぴったりの言葉です。7月上旬の九州北部号では本件は甚大な被害を受けました。中でも日田市の被害が大きかったと聞いています。日田市花月川流域の地域が、行政からの指示を待たずに自ら避難して、人命を守ったとの報道を目にしました。ある高齢の方が「うちの地区は皆さんがきちんとしてくれている。信頼している。」という意味のことを言っておられました。この言葉からも、地域住民お互いの信頼感、絆が地域づくりの根底にある所は、ソーシャルキャピタルが醸成されていることがうかがえます。ソーシャルキャピタルが高い地域では、いじめや不登校が少ない傾向にあるそうです。学力も高い傾向にあるそうです。
 平成27年12月の中教審答申、「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」では、学校を核として地域づくり、地域とともにある学校づくりを提唱しています。
 平成28年12月の中教審答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」では、「“よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る”という目標を学校と社会が共有し、連携・協働しながら、新しい時代に求められる資質・能力を子供たちに育む「社会に開かれた教育課程」の実現を提唱しています。地域に開かれた教育課程の推進では、「①社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと、②これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自分の人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程に明確化しはぐくんでいくこと、③教育課程の実施に当たって、地域の人物・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること」を謳っています。具体的には、何を知っているか、学んで得た知識や技術を使ってどのように社会と関わり、よりよい人生を送るか、学校での“学習”と現実社会の“生活”とを統合し、“地の総合化を図る教育課程”としています。

 図示していますように、地域とともにある学校づくりと学校を核として地域づくりの架け橋になるのが社会に開かれた教育課程だと私は思います。
 以上のようなことを根底に据えて、皆さん方、統括アドバイザーの役割等について考えてみたいと思います。
 これからのコーディネーターの役割を考える上でのキーワードは、「集める」、「知らせる」、「受け止める」、「結ぶ」、「つなぐ」、そして「振り返る」です。
 「集める」は、各種ボランティアを集めることです。ボランティアを集めるには大変な苦労がおありと思います。ボランティアを集める上での課題は、「高齢化」、「固定化」、「減少化」です。ボランティアの養成・発掘が大きな課題です。このことについては、後ほど益城町での取組のところで詳しく述べます。「知らせる」は、学校と地域の声や思いをそれぞれに知らせることです。「受けとめる」はその思いを受けとめ、思いが実現するようにコーディネートすることです。「結ぶ」は、学校と地域を結ぶこです。「つなぐ」は、地域学校協働活動を後世にそして他校につなぐことです。「振り返る」は、評価です。
 国立教育研究所が実施した平成27年度地域学校協働活動に関する調査では、コーディネーターの役割として現在行っているものは、学校との連絡調整、関係機関・団体との連絡調整、ボランティア等のネットワークづくり、地域の教育資源の収集・整理、地域住民のニーズの収集・分析、公民館、図書館との連絡調整等が主なものだったそうです。
 このことからもお分かりのようにコーディネーターの役割は、学校と地域(ボランティア)をつなぐパイプ役であり、学校の要望を把握して、学校の求めに応じたボランティアを派遣することであり、両者の思いや願いを受け止め、対等の関係で一緒に活動を創りあげていくための調整だと思います。
 これからの統括アドバイザーの役割は、
 「地域人材の活用」を、これまでの「学校教育で足りないところを補完する」という考えから、「子供の未来のために、社会総がかりで何ができるか」へと考え方を転換して、アドバイザーの役割を考えていくべきだと思います。
 先ほども述べましたが、文科省は、「『支援』から『連携・協働』へ」、「『個別の活動』から『総合化・ネットワーク化』へ」を提唱しています。
 このことは、
 学校と地域が目標を共有し、パートナーとして協働していくことです。
 地域と学校がパートナーとしてともに子供を育てることを実感できるようなコーディネートをすることです。
学校と地域が目標を共有し、パートナーとして協働していくようなコーディネートをすることです。
 支援から連携・協働へ、個別の活動から総合化・ネットワーク化へを図るコーディネートをすることです。
 地域学校協働本部へ発展させる展望を持ち、皆さんに示すことです。
 地域学校協働活動の企画・立案に当たることです。
 学校や地域住民、企業・団体・機関等の関係者との連絡・調整に当たることです。
 地域ボランティアの募集・発掘・確保に当たることです。
 地域住民への情報提供・活動促進等も重要な役割であると思います。
 このようなことが皆さん方に期待されているのだろうと思います。
 以上のような観点から、統括アドバイザーとして身につけておきたいことをいくつか列挙しますと、  ・地域学校協働活動の推進に関する熱意と識見を有すること
  ・地域学校協働活動への深い関心と理解があること
・住民、団体、機関等の関係者の現状等を理解していること
・学校の実情や教育方針を理解していること
・住民や学校、行政関係者等と協力して活動を円滑に進めることができるコミュニケーション力を有していること
・地域課題についての問題意識を持っていること(学校の課題は地域の課題という認識)
・地域コーディネーター同士のネットワークの構築ができること
  何よりも子供たちへの熱い思いがあることが最も重要です。これらが初めから備わっている人は皆無だろうと思います。私も全て持ち合わせているわけではありません。要は、このようにありたいと日々研鑽することではないでしょうか。
 私は、熊本県益城町教育委員会で、統括コーディネータ的役割を担っています。教育委員会職員やコーディネーターには、「コーディネーターは、『押し売り』『御用聞き』『仕掛け人』である」といつも言っています。
 このことについて、お話しします。
 私は平成9年に校長となりました。その学校で、学校教育への理解と協力・支援、地域の願いを学校教育に反映させるため、教育懇談会を年3回程度開きました。区長、民生委員、教育委員、社会教育委員、体育協会、老人クラブ、婦人会、PTA、郵便局、商工会、駐在員等で構成しました。学校からは、校長、教頭、教務主任が出席していました。
 初めて教育懇談会を実施した時、ある区長長さんがいきなり、「校長先生、子供たちが地域では挨拶しないが学校ではどのような指導をしているのですか?」と私をなじるような口調で発言されました。この言葉を聞いた別の区長さんがすかざす、「あたは何ば言いよるとな!そぎゃんした問題が地域であるから、どうすれ解決できるかを話し合うために校長先生が、今夜こうして私たちを呼ばれて話し合おうとされたのではなかな。子供たちが地域でも挨拶できるようにするにはどうすればよいかを話し合おうじゃなかな」と。この一言で、私が目指した「地域と学校がともに子供を育てあう」という雰囲気ができあがりました。
 また、祖父母や地域の高齢の方においでいただく祖父母学級を開催しました。そのとき、車の運転ができない高齢者をどうやって学校までおいでいただくかが課題となりました。ある民生委員さんが、「校長先生、地域の高齢の方は私たちが車でピストン輸送します。先生方は、祖父母学級の中身を考えてください」と言われました。また、学習指導要領改訂の時期でもありました。マスメディアが、「円周率が「3」となる」、「台形の面積の公式を覚えなくともよい」などと言っていました関係から、子供たちの学力が低下しはしないか等の心配がありました。そのようなことも丁寧に説明して歩きました。「円周率が「3」というのは、およその数の計算でのことです。台形の面積は、長方形と三角形を組み合わせることで求めることができます。このように学んだことを活用して新たな課題解決に取り組もうと言うことです」などと説明すると、「わしたちもそんなことは考えよった」などと安堵しておられました。
 また、冒頭、地域とともにある学校づくりの経緯を説明したときにもふれましたが、平成14年4月から学校完全週5日制が始まりました。このときも、家に保護者がいない家庭は、休みの日にはどう過ごすのだろう、遊んでばかりいないだろうか、非行に走らないだろうか、学力が低下しないだろうか、などの心配がありました。このとき、「学校週5日制は地域2日制だ。地域で、地域行事に子供を参加させるとか清掃活動をさせるとか、地域で栽培活動をさせるなど計画的な活動ができる」ととらえたらどうでしょうかと話すと、「そうですな。地域での我々の出番ができると言うことですな」と受け止めて貰っていました。
 益城町では、私が益城中央小学校に異動した平成13年度から教育懇談会を実施してきました。会合では、学校経営の方針説明、意見交換、学校応援団の体制づくり、ふれあい給食、研究授業参観等を行ってきました。この取組が他校にも広まり、益城町内の全小中学校で教育懇談会を実施しました。この教育懇談会は学校評議員制度の趣旨と同じであることから益城町では、条例では学校評議員を置くことができるとされていますが、学校評議員制度はありません。
 教育懇談会の席で、ある方から次のような話がありました。
 私は、手首を骨折して今病院に通っています。先生の都合で診てくれる先生がよく代わります。今日は私の手首のことがよく分かっている先生に当たればいいがと思って通院しています。子供たちも自分のことがよく分かる先生に教えて欲しいと思っていると思います。どの子も「担任はあの先生であってほしい」思うような先生になっていただきたいと思います。
 このことを全職員に伝えました。子供の願い、保護者の願い、地域の願いに応えることができ教員になりましょうと。
 また、「○○さん宅では、昔の農機具をたくさん保存してあります。郷土学習や社会科の学習などで訪問されたらどうですか」などの情報提供もたくさんいただきました。
 次は、公民館と連携した益城町の地域学校協働活動についてお話しします。
 私は、平成16年3月、退職と同時に益城町社会教育指導員の仕事をしました。公民館講座で学んで得た知識や技能を社会参加活動に生かしましょうと言い続けました。
 平成17年、「そろばん学習を通して自分自身の脳を活性化させ老化防止に役立てましょう」「孫や近所の子供たちにそろばんのおもしろさを伝えましょう」をキャッチフレーズにして、公民館主催講座の一つに“そろばん教室”を開設しました。私が指導しました。当時は、放課後子供教室も学校支援地域本部事業もありませんでした。町内の3年生担任の先生から、「3年生はそろばん学習がありますが、私はそろばんができません。どう教えて良いか困っています」と聞きました。早速その先生のそろばん学習の応援に公民館講座生と一緒に押しかけました。講座生は、「自分は学んでいる立場なのに子供に教えるなんてできません」と尻込みしましたが、「教えるのは先生です。私たちは先生のお手伝いに行くのです」と趣旨を説明してそろばん学習を手伝いました。授業では、先生による全体指導で、そろばんの各部の名称とか計算方法を学んだ後で、そろばんをつかって計算するのですが、子供たちは指遣いを始め計算も教えられたとおりにはできません。「分かりません」とあちこちから手が挙がります。講座生が質問した子供に寄り添って、指遣いや計算方法を教えると子供はにっこり笑って「分かりました。ありがとうございました」と言います。講座生は、自分が教えたことで理解した子供の笑顔と感謝の言葉でやりがいを感じました。授業後、先生からは感謝の言葉がありました。休み時間には、子供たちが講座生にいろんな質問をしていました。講座生は、にこにこしながらそれに応えていました。押しかけたそろばん学習支援は大成功でした。それ以来、他の学校にも押しかけました。先生方から大変喜ばれました。19年度からは、学校から「今年もそろばん学習を一緒にしてください」との依頼が出てきました。そして、20年度から学校支援地域本部事業が始まり、年間計画に位置づけられるようになりました。今では、3年生・4年生の学習支援に行っています。
 益城町では、20年度から放課後子供教室が始まりました。教育長から子供教室開催の意向を聞き、「子供たちの放課後の安心安全居場所づくりをするのであれば、併せて学力向上、特に計算力を身につけるためにそろばん学習を中心に行いましょうか」と提案すると、教育長から「それでいきましょう」と了解をいただき、公民館講座生を指導員とした放課後子供教室を町内2つの小学校で始めました。現在は、5校全てで行っています。町の商工会と連携して、全国商工会作成の練習帳をもとに学習を進め、全国商工会主催のそろばん検定試験を受験しています。レベルは珠算連盟とほとんど同じです。これまで、2級合格者が2名出ました。子供たちが検定試験に合格する度に、講座生は我がごとのように喜んでいます。そして、「子供には頑張れと言うのに自分は何もしないでは子供に顔向けができない」と講座生も一緒に検定試験を受けています。
 そろばん教室から始まった学習支援は、毛筆習字、○付け、読み聞かせ、傾聴、昔遊び等へと発展しています。学習支援の範囲を更に広めるため、学校支援ボランティアの養成・発掘の場として、公民館講座に、習字、ペン習字、絵手紙、陶芸、ふるさと学芸員、水彩画等を開催していますが、課題は、ボランティアの広がりが思うように進まないことです。
 学校支援地域本部事業や放課後子供教室にはコーディネーターがいます。私は、二つのコーディネーターをしています。4月、益城町では学校支援地域本部事業の地域コーディネーターを地域学校協働活動推進員と名称変更しました。私のほかに2人のコーディネーターがいます。私は教育委員会にいて、統括コーディネーターの役割、他の2人は、学校に常駐して先生方のニーズ把握や地域の情報提供がしやすいような体制をとっています。2人は、学校教育課の学校教育支援員も兼ねています。
 年3回程度コーディネーター会議を開催しています。参加者は、コーディネーター、配置校の教頭、生涯学習課職員です。活動報告をはじめ、情報交換や困りごと相談、学習支援アイデア交換等です。このなかで、益城中央小学校から、「傾聴ボランティア」の紹介がありました。子供たちの発表を聞くボランティアのことです。全体発表を聞くのではなく、グループで発表するのを地域の人が聞くのです。ですから、5人グループに1人の傾聴ボランティアがつきます。ボランティアには、「一生懸命聞いてください。おおいにほめてください。必ず1つ質問してください。教えることはできません」の約束ごとがあります。3年生の作文発表を例に説明します。子供たちは自分の作文を発表します。「私はきのう、○○ちゃんと遊びました。とても楽しかったです。」と読み上げると、傾聴ボランティアが「遊びましたとありましたが、どんな遊びをしたのですか?」とか「楽しかったです。とありましたがどのように楽しかったのですか?」などの質問をします。子供たちはその質問を付箋紙に書き、自席に帰って、質問に答える文章を作文に書き加えていきます。いわゆる、作文の推敲ができるのです。学級全体での発表であるなら、1時間の授業で多くて10人程度の発表だろうと思います。しかし、全員が発表できるのです。しかも親や先生ではない地域の人からほめられるのです。子供たちの目は輝いています。6年生の算数、「縮図拡大図を書きましょう」の授業では、ある子供が自分で書いた三角形の拡大図を示しながら、「底辺を図ってみたら5cmでした。だから2倍して10cmを書きました。他の辺の長さを測ったら3cmと4cmでした。それぞれ2倍して、6cm、8cmの長さを底辺の両端にコンパスをおいて半円をかき、交わったところと両端を結んで三角形を書きました。」と説明しました。「あなたがどのようにに書いたかは分かりました。2倍の三角形なら教科書の三角形とあなたが書いた三角形の角度は同じはずですが、角度は調べてみましたか?」と質問が出ます。「角度は測っていません。角度を測ってからもう一度説明に来ます」と自席に帰って、分度器で角度を測り、再度説明に来ていました。このような活動を全員がするのです。自分の考えを筋道立てて説明する数学的思考力、わかりやすく説明する言語活動の充実が期待できます。
 益城町では、昨年4月の熊本地震で甚大な被害を受けました。地震からの復旧・復興に取り組んでいます。教育の場でも熊本地震からの復旧・復興を図り、我がふるさと益城町を誇りに思い、愛着を持つ子供たちを育てようと、地域のひと・もの・ことを調査分析し、町の歴史、文化、自然、産業等を授業の中に取り入れた学習活動を展開していこうと益城版コミュニティ・スクールの立ち上げに向けた取り組みが始まりました。地域と共にある学校づくり、学校を核とした新たな地域づくりに努めていきたいと思います。
 おわりに、上益城のある中学校の学校運営協議会長さんの言葉を紹介します。
「子どもたちに我がふるさとのよさをたくさん教えてください。子どもたちが成人したあかつきには、我がふるさとの担い手となるよう教え導いてください。いろいろな都合で、ふるさとから離れなければならなくなったとしても、第一線をリタイアした後にはふるさとに帰ってくる人に育ててください。そのために私たちは一生懸命協力します。」
 これは全ての人々の願いであると思います。本日お出での皆さんが大分の協育の発展充実のため、ますますご活躍されますことを祈念して話を終わります。
 ご静聴ありがとうございました。


大分県 第1回「協育」ネットワーク統括アドバイザー研修会 感想


○社会教育と学校教育の「連携・協働のあゆみ」を、今まで詳しく学ぶ機会がなかったのですが、今回の講義で学ぶことができてよかった。

○キーワード「集める」「知らせる」「受けとめる」「結ぶ」「つなぐ」「振り返る」、今までの業務よりもっと気持ちを持って取り組もうと認識できた。

○地域づくりにしても、学校づくりにしても、人とのつながりが一番大切。子供の健やかな成長を願う気持ちは誰も同じと思うので、よりよい社会づくりを通じて、子供たちに何ができるか考えていこうと思う。

○地域・家庭・学校との連携が大切と言葉では何度も聞きますが、どこかまだ曖昧な感じ方がありましたが、今日、中川先生のお話でストンと心に落ちて再確認、今後の取組に勇気熱意がさらに沸きました。こういう話を一同に学校教員、コーディネーター、地域、保護者等関わる方々が、聞く場を作れば共有でき、確認しあって発展につながると感じました。がんばっていこうと思います。

○実際に統括アドバイザー、活動推進員をされている中川先生のお話は非常に説得力があり、これまでの学校支援活動へと発展した取組の必要性がよく分かった。傾聴ボランティアの取組は大変参考になった。

○教育ブロックごとのコーディネートの必要性を感じました。

○講義の初めの方で、「国と社会教育と・・・・協働に関する歩み」を説明していただきいたおかげで、文科省が今進めている教育改革が一過性のものではないことがよく分かった。地域学校協働本部やコミュニティ・スクールなどの取組は、一朝一夕に実現するものではないことも分かった。予算面での裏付けがないボランティア扱い、法律の甘さ(努力義務)、地域の人材不足・・・・それにどんどん消滅していく地域や学校の実情・・・大変だ!

○中川さんという人がいたからできたこと、できることがある。そんな人材を見つける、育てることにつきると思う。行政職員は異動する。内容はこれら重要なことと思うが、現状はボランティアなど難しい。

○子供と地域がつながり、人間関係も深まることで、住民どおしの絆や結束力も強くなることを学びました。

○地元での実践例を取り入れ、とてもわかりやすかった。学校教育担当にも研修して欲しい。

○自らの実践例を交えて丁寧に説明してくださったので、理解が進みました。

○学習しておかなければならない法規が分かった点がよかったと思う。協働活動がいくつかイメージできるお話をいくつかお聞きできてよかったです。